食肉の化学:死後硬直やミオグロビンの変化など

死後硬直は、嫌気的解糖による乳酸蓄積に伴うpHの上昇によって始まる?

と畜した家畜の筋肉は、筋肉への酸素の供給がなくなるため、好気的な代謝は停止しますが、嫌気的な代謝は継続されます。家畜の筋肉のpHは約7.0ですが、と畜後は筋肉中のグリコーゲンが嫌気的な代謝(死後解糖)により分解され、代謝産物である乳酸が蓄積するため、pHは約5.0~5.5まで低下します。
このように、乳酸生成による影響で体内pHが低下し、筋肉ではアクチンとミオシンが結合してアクトミオシンを生成し、肉は硬い状態になります。また、保水性も悪くなります。

筋肉が最も収縮した状態を最大硬直期といいます。
死後硬直期の食肉は硬くて保水力が低く、食肉としては適しません。また、死後硬直終了前の食肉を冷凍すると、解凍の際に硬直が進み、多量のドリップを生じます。

解糖系については、当サイト内の『解糖系とはグルコースがピルビン酸または乳酸にまで分解される代謝経路で血液中において反応が進む?』の解答解説をご覧ください。

(答え) 低下
死後硬直は、嫌気的解糖による乳酸蓄積に伴うpHの低下によって始まる。

【参考文献】
食肉の熟成について 食肉の基礎知識
http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/kisochisiki/jukusei/index.html

死後硬直では、筋肉中のATP供給が停止してアクチンとミオシンが結合したままになる?

当ページ上記にある『肉基質たんぱく質にはコラーゲンやエラスチンが含まれ、その含量が多いほど肉質は柔らかい?』における筋原線維タンパク質の解説、更に当ページ上記の『死後硬直は、嫌気的解糖による乳酸蓄積に伴うpHの上昇によって始まる?』の解説をご覧ください。
死後硬直の際、筋肉中グリコーゲンの分解による乳酸生成の影響で体内pHが低下しATPが減少することで、筋原線維タンパク質であるアクチン、ミオシンから結合によりアクトミオシンを生じて硬化が生じます。

(答え) 〇

死後硬直が解除される時間には、ATPが分解されてイノシン酸が蓄積される?

筋肉が最大硬直の後、逆に軟化する現象を解硬(硬直解除)といいます。
自己消化によりたんぱく質からペプチドやアミノ酸が生成して筋肉中のpHが上昇するとともに、食肉の柔らかさ、保水性やうま味が増します。
食肉の熟成におけるうま味の増大は、肉中に残存するATPからうま味成分のイノシン酸(IMP)が生成されるからです。

ATP(アデノシン3リン酸)は死後硬直により徐々に分解されていきます。まずはリン酸が分解されていき、ADP(アデノシン2リン酸)を経てAMP(アデノシンリン酸)になります。

続いてアデニンの部分にあるアミノ基が脱アミノ化されてAMPからIMP(イノシン酸)が生成されます。このイノシン酸は白身魚の旨味成分などで知られており、死後硬直後に適度に保存した方が美味しくなると言われる理由の1つになります。

イノシン酸の化学構造

イノシン酸がさらに分解など化学変化が進むと、リン酸が分解されてイノシン(苦味)となり、さらにリボースが分解されてヒポキサンチン(苦味)が生じます。ヒポキサンチンが増えることは逆に鮮度が低下した指標として扱われています。

ヒポキサンチンの化学構造

(答え) 〇

【参考文献】
東京アカデミー.2020年版 管理栄養士国家試験対策 完全合格教本 下巻.
七賢出版株式会社,2019,128p
和泉秀彦/三宅義明/舘和彦.栄養科学ファウンデーションシリーズ 食品学.
朝倉書店,2014,86~87p

食肉の保水性は、一般に硬直期は高く、解除期には徐々に低くなってくる?

食肉の保水性は死後硬直と共に低くなります。

しかし死後硬直後、解除期つまり解硬時には筋原線維 の構造強度が減少することで水を保持できる構造体の間隙が増加することと、更にアクチンやミオシン間の結合力の減少、すなわち硬直結合物(アクトミオシン)の分子内変化によって保水性が上昇します。
この現象は肉などを熟成した際に生じる現象にも応用されています。

(答え) ✖ 逆
食肉の保水性は、一般に硬直期は低く、解除期には徐々に高くなってくる。

【参考文献】
食肉のおいしさと熟成 調理科学Vol.25 No.4
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/25/4/25_314/_pdf