SPF測定実施マニュアル:ISO24444準拠

紫外線防止効果試験(SPF試験)はISO24444(2019年改訂版)に準じて実施されます。同ISOは英文で68ページに渡る指針が書かれています。これを都度参照することは現実的ではありませんので、必要に応じて参照できるマニュアルとしました。

ISO24444に記載されている事項の中でも、こちらは主に手を動かす実験者向けのオペレーションマニュアルになります。目次の「3.測定の詳細や原理」以降は難解な部分がありますので、基本的には1と2の項目、特に「2.実験の手順」を参照してください。指導的な立場の方々は「3.測定の詳細と原理」についても把握してください。

被験者募集の留意点

募集要項に大部分が記載しているので実験者は意識することが少ないかもしれませが、直接的に知人などに声をかける場合も想定されますので、参加可能な要件をおおまかに確認してください。

被験者の人数

ISO24444では、例数が10~20名と明記されています。最大5例を除外しても良いと書かれています。そのため、食後血糖値測定試験などと同様に10~15名の応募を基準としています。ISOには肌の色について偏らないよう書かれています。詳細は省略しますが、一般的な臨床試験と同様に男女比が1:2未満になるよう調整をしてください。

予備的にSPFを予想するために3名のみで実施する場合もあります。

被験者の除外基準

こちらも募集要項に記載されているので普段は意識することが少ないですが、十分に募集要項を確認していない方もおられることから(例えば、女性の募集に男性が応募されることもあります)以下の除外要件は意識をしてください。年3~5回程度の実施に実施する予定であり、被験者さんも固定的になると予想されることから、除外に該当することは極めて稀であると思います。

  • 未成年(18歳未満)、70歳以上
  • 以前参加してから8週間以内
  • 以前参加した際の跡が明確に残っている
  • プールや海水浴などによる明確な日焼けが残っている

ISOに計測に基づく基準が書かれているのですが、日本人として特に色黒(日本人離れしていると形容されるような)な人は測定しても除外になりそうです。一般的には、肌の色で除外になるような方は稀であると想定されるので(差別的にもなりかねないので)、募集要項には除外として記載していません。除外に該当する場合は、心証が悪くならないよう他の試験への参加を打診するなど配慮しつつ、SPF試験には申し込みできない旨を謝礼お渡し時などに伝えてください。

実験の手順

ISO24444に準拠しつつ、それ以外の当研究グループで円滑に実施するための指針も含まれています。書かれている内容は原則として、実施困難な部分があれば都度相談をしてください。

実験の準備

以下の物品等を、被験者募集前に準備をしておいてください。機器類は動作確認を済ませるなど、すぐに使える状態にあるかを確認してください。不備がある場合は被験者募集を控え(容易に手配できる場合は除く)、物品の動作確認等が済んでから募集を開始してください。

  • 試験品
  • 紫外線照射装置
  • 紫外線強度計
  • 色差計(カラーメーター)
  • 照明、照度計、カメラ
  • 会場の手配
  • 精密天秤
  • 手袋、綿棒、エタノール等の消耗品

被験者募集

募集サイトを確認して問題がなければLINEやメール、口頭等で募集を開始します。事前に同意書フォームをお知らせして同意を得てください。来場の注意事項などの際に、改めて除外上限に該当していないかを確認もお願いします。

前日~当日の準備

以下の事項について、可能であれば前日までに準備を済ませてください。特に、被験者さんが背中を出している時間が最小限になるように当日のオペレーションを考えてください。また被験者さんが気持ち良く過ごせていただけるよう、整理整頓も含めて可能な限り様々な配慮を検討してください。

  • 紫外線照射の動作確認:電源を入れて数分後、数値が「600」程度になることを確認
  • 被験者さんの視野から実験者以外が見えないような空間作り
  • 空調を入れておく:ISOでは室温20~26℃と定められています
  • リラックスしてもらうための工夫:BGMなど
  • 塗布するサンプルの準備:迅速にできるよう可能であれば秤量をすませておく

紫外線照射の実施

大まかな流れとしては、以下の手順で実施をします。

  • 被験者さんに背中を出してもらう
  • 色差計で肌の測定:3回必要(後で平均値を算出)
  • 背中に印をする
  • 無塗布の紫外線照射
  • サンプルの塗布
  • SPF判定の紫外線の照射
  • サンプルの拭き取り

照射時間については、被験者やサンプルの特性で前後しますが、無塗布の場合は十数秒、塗布している場合は5~10分くらいになります。背中を出してもらうことや塗布も含めて、1名につき30分程度で進めると余裕をもって進行できると思います。

紅斑の判定

ISOでは塗布から16~24時間後と定められているので、翌日の同じ時間に来場をしてもらってください(募集要項にも明記しています)。24時間を超えてしまうので後ろ倒しはできませんが、多少の前倒しは可能です。6500Kの色温度、明るさは450ルクス以上と定められています。撮影のセットアップは会場によっても違いますので、現地での調整となります(普段利用する会場では装置による調整済み)。部屋の明るさも多少影響をしますので、念のために毎回、照度計で確認をしてください。

一般的な臨床試験と同様、盲検化(意図的、無意識的にも実験者がデータを操作できないようにすること)が必要です。そのために写真撮影をして、判定は別の者が実施します。

測定の詳細や原理

最初からISO24444を全て理解することは難しいので、以下を理解せずに指示通りに実施することも可能です。ですが、測定に関する個々で実施されている原理を理解することで、SPF測定の全体像に納得して実施できるかと思います。参考資料として、以下もご覧頂けますと幸いです。

SPF値の計算方法

原理は単純です。日焼け止めクリーム等を塗布すると、日焼けをしにくくなります。ですが、その効果は永久に続く訳ではありません。日焼け止め剤が光を吸収、拡散するということは、その物質が徐々に劣化することも意味します。SPF値は、皮膚が赤くなってしまう時間がどれくらい延長するかを数値化したものです。以下の値で求められます。

SPF値=塗布をした際の照射時間/塗布をしていない際の照射時間

例えば、10分で日焼けをしてしまう方が、SPF30の日焼け止めをした場合、5時間も耐え得るといった具合です。ISO24444ではSPF50以上もあり得るのですが、日本化粧品工業連合会の基準によりSPF51以上の場合は全て「50+」とすることが定められています。無理な試験実施や過剰な競争を防ぐ日本独自の自主規制と解釈できます。

紫外線照射の準備

ISO24444では以下のように細かく要件が定められています。

  • スポットの最小面積は0.5cm2
  • 1cm以上の間隔を空ける
  • 塗布する総面積は30cm2以上、最大60cm2

当研究グループでは、紫外線を全く通さない黒い厚紙を使い、それに半径8mmの穴を空けています。

後述の通り1サンプル5スポット必要になります(1ラインとします)。測定装置の制限はありますが、~10ライン程度確保できます。無塗布の測定のために1ライン、標品(プラセボ的な化粧品)の計2~3ライン必要になりますが、5サンプル以上測定することができます。

ISOに詳細が記載されていますが、照射装置の確認は事実上毎回必要です(条件によっては半年に1回でも良いと書かれていますが、1ヶ月に1回必要と記載されている部分もあり、こちらに合わせたいと思います)。

肌の測定

色差計で肌の色を測定します。前述の通り、日焼けをしていない一般的な肌の色をしている日本人であれば被験者として参加して頂くことは可能ですが、サンプルの塗布の前に範囲内に収まっているかを確認してください。既に数式が入っているExcelファイルに色差計の数値を入力すれば良いですが、以下の計算式で「ITA°」という値が算出されます。

ITA°=((ATAN(L-50)/b))*180/PI()

上記のLとbについては、色差計が計測した数値を入力してください。関数ATAN()は逆タンゼント、PI()は円周率を意味します。感覚としては、光の三原色を局面上に線形でプロットするイメージです。この値が28未満の方は、その時点で測定をお断りすることになります。また、被験者さんのITAの平均値が41~55の範囲にあり、55以上の方が3名以上含まれるよう細かくISOに規定されています。

簡単に言えば、やや色白の方を中心に極端に偏らないよう募集する必要があります。

サンプルの塗布

普段の試験にプラセボを用いることと同様に、標準品の塗布が毎回必要です。これも同様に細かく規定されています。サンプルの性状(クリーム、オイル、パウダーなど)によって細かく規定されているのですが、以下、一般的な要件になります。

  • 2mg/cm2で塗る:±2.5%を許容
  • 均一なるよう撹拌などしておく
  • 塗布前に蒸発しないようにしておく
  • できれば20~50秒で均一に塗布
  • UVAで均一性を確認

難しいことをいわれているような感じですが、一般的な量で、普通に塗布という作業になることが分かると思います。ISOに準拠するために秤量とUVA(365nm)での確認をお願いします。実験時に忘れないように、確認後すぐにUVB(312nm)に戻してください。欠損値扱いになる、もしくは被験者さんに再度来場してもらうなど、そのために謝礼が発生してしまうなどの問題になります。

標準品ですが、P2、P5、P8という3種類の規格を使います。P2は全員に塗布します。SPF25以上を求める際にはP5、SPF50以上を求める場合にはP8を半数(5名以上)の被験者さんに塗布します。

紫外線の照射

実際に日焼け止めを塗ってもらって数時間も屋外に立ってもらう訳にはいきません。常に太陽光がある訳でなく、その強さも増減をします。何より熱中症になってしまいそうです。そのため、紫外線の強い光源を使って短時間で実施できるようにします。

当研究グループの紫外線強度は6mW/cm2(60W/m2)程度の測定値であり、これは計算値としては10秒未満でも肌が赤くなる光線になります。実際は人によって誤差があり、10~15秒程度で紅斑が出ることが多いです。

塗布をしていない際の照射時間

なるべく正確に数値を求められるよう、ISOでは5つ以上の照射時間を設けるべきとされています。その時間は上記のように、推定値の前後から決めるようにとも書かれています。10~15秒程度ということでしたら、8、10、12、14、16秒といった具合です。

ISOではさらに細かく規定されていて、このように2秒毎と差を一定にするのではなく、比を一定にすること、さらにその比は1.12, 1.15, 1.2, 1.25などが例として示されています。12秒を基準値として1.2を比とする場合は、8、10、12、14、17秒になります。1秒未満を測定することは難しいからかISOでは整数値にできると書かれています。これは、被験者さんの特性や時期(季節)も考慮して随時変更となります。

塗布をした際の照射時間

上記の無塗布の照射で12秒で紅斑が出る(10秒では出ない)場合は、その12秒を基準値とします。その場合、1分保持するとSPF5、5分保持するとSPF25、10分保持するとSPF50になることが分かります。塗布する際の照射時間も、予備実験や製品設計から予想値を出します。塗布していない際、塗布した際を別日に実施することができない(同日に実施することがISOに定められている)ので、10分の保持がSPF50になることもあれば、それ以上、もしくは以下の数値をとることになります。

塗布をした際の時間比は上記よりタイトに定められており、SPF25以上では1.15以内とされています。SPF30を目的とした試験の場合、推定時間は6分ですので、1.1を比とする場合、約5分、5分30秒、6分、6分40秒、7分15秒程度といった具合になります。

これは予想されるSPF値によっても変わるので、都度、算出が必要です。

紅斑の判定

単純に赤くなっているかを確認するのですが、ISOでは客観性を強く求めています。そこで、人の目による判定ではなく、当研究グループでは画像解析を用います。判定の基準は「照射した場所の50%以上に赤みがあり、境界があり、目視できる」とされています。ISOには細かく「赤みが50%未満であったり境界が不明瞭」を0.5の反応と書かれていたりしますが、実際の判断は上記になります。

上記の通り、1つのサンプルを測定する場合、最低10ポイント(無塗布5ポイント、塗布5ポイント)の照射をします。このすべてに紅斑が出なかった場合、逆にすべてに出てしまった場合、そのデータは使えず除外となってしまいます。

SPF値の計算

ISOには、紅斑が検出された際のエネルギーをJ/m2の値に換算して計算するようにと書かれています。当研究グループの装置では、ほぼ均一な線量であることが確認されていますので、前述の通り、時間の割り算をすることで計算が可能です。十数名の平均値を求めて、小数点第一位までを切り捨てて最終的なSPF値となります。

統計解析などは必要ないですが、「95%信頼区間が平均値の±17%範囲に入っていなければならない」とISOに書かれており、多少の統計知識とExcelでの確認が必要です。平均値±SE(標準誤差)の1.96倍が95%信頼区間になります。SEは標準誤差を例数の平方根で割った値です。つまり、以下の値が0.17未満であることを確認すれば大丈夫です。この範囲に収まらなければ、例数(人数)を追加する必要があります。

=stdev(入力値の範囲)/sqrt(入力値の範囲)/average(入力値の範囲)

信頼区間の理解は、こちらのページに詳細を解説しています。1.96という数字の意味などが分かるかもしれません。参考までに、標準偏差を平均値で割った値は変動係数(CV)と呼ばれています。つまり、この値はCVを人数の平方根(9人であれば3、16人であれば4)で割った値でもあります。人数が増えるほど小さな値になり、十分な例数が多ければ良いこと分かります。一般的にCVが1以上はバラツキが多いと判断されており、0.17は無理のない順当な数字と言えそうです(根拠が書かれておらず調べても該当がなく経験則だと思われます)。

報告書の体裁

基本的にテンプレートに則って、詳細は意識せずに測定値を主に記載すれば報告書が完結します。私共が普段実施している実験よりも測定項目や解析が極端に少なく、その部分は難易度が低いです。ですが、研究レビュー以上にISOが様式を細かく規定しており、抜けがないかを確認することが大変です。以下、私共が普段報告書に含めない項目であり、留意とダブルチェックが必要です。

  • サンプルの推定SPF値
  • 塗布の方法、サンプルの準備方法
  • 許容限界
  • 95%信頼区間
  • 試験担当者
  • ITA値
  • 照射時間から計算されるエネルギー値(J/m2
  • 各被験者のSPF値、紫外線照射日

当研究グループで実施している通常の常識に照らして以下のことは問題なく記載することと思いますが、ISOの基準を満たすためにも、確認のために以下列挙します。

  • 実施施設
  • ISO24444に準拠した旨の記述
  • ヘルシンキ宣言、同意取得
  • サンプルの名称
  • 照射時間、その根拠(1.2倍の比で時間を増やしていることも)
  • 試験日
  • 紫外線照射装置に関する記述
  • 脱落例とその理由
  • 照射時間(測定値)
  • 平均値と標準偏差
  • 統計的妥当性

ISOの総評と今後の予想

ISO24444は非常に細かく条件など規定されていますが、以下の通りに条件が緩い部分も少なくありません。

  • 男女比の記載がない:現在は全員男性、女性でも可能
  • 年齢に対する自由度が高い:現在は全員大学生、もしくは高齢者でも可能
  • 被験者さんへの心理的配慮が書かれていない:痛みを除くくらいの記載
  • 室温の許容幅が多い:24 ± 1℃もしくは23 ± 2℃にすべき?
  • 目視での確認が許容されている:画像解析や閾値の明確化が求められる?
  • 測定の精度が厳密ではない:より低いCV(変動係数)が求められる?
  • 倫理委員会やヘルシンキ宣言の記載が不要:将来的にはUMINも必要?

2019年に改定があったので、5年後を過ぎた2024年以降には、より厳格な改定になる可能性もあります。その際にもISOの基準が満たせるよう、可能な限り高い基準で実施できる体制を整えたいと考えております。