食肉の化学:死後硬直やミオグロビンの変化など

牛脂は羊肉や豚脂よりも融点が低く、解けやすいので舌ざわりがよい?

融点とは、固体が融解し液体になる時の温度のことです。
融点が低い=溶け出す温度が低い(溶けやすい)、融点が高い=溶け出す温度が高い(溶けにくい)

油脂の融点は油脂に含まれる脂肪酸が大きな影響を与えます。
油脂は複数種類の脂肪酸から構成されており、これら脂肪酸における炭素数二重結合の数シストランス型などによって融点が異なります。

各脂肪酸において融点の指標は以下の通りです。
・構造中の炭素数が少ないほど融点が下がる。
・構造中の二重結合の数が多い方が融点が下がる。
・同じ炭素数の脂肪酸を比べると、シス型はそのトランス型よりも融点が低く、シス型の場合二重結合が炭化水素鎖の中央に近づくにつれて融点が下がる。

肉類の油脂にはオレイン酸、パルミチン酸などが多く含まれており、構造から融点が高いことがわかります。一方で植物性油脂はリノール酸が多く含まれており融点が低くなります。更にこのような違いが生じた原因としては動物性の場合動物自体の体温が高いからという理由も挙げられます。
これらの特徴をふまえたうえで融点のデータを以下に示すのでご覧ください。
牛脂⇒40~50℃
豚油⇒28~48℃
ヤシ油⇒23~28℃
大豆油⇒-8~-10℃
亜麻仁油⇒-16~-25℃

勿論口の中の温度は基本的に一定である為、融点によって肉を食した際の舌触りに大きく影響し、融点が低い方がくちどけよく美味しくいただけます。

(答え) 豚肉より高く舌ざわりが悪い
牛脂は豚脂よりも融点が高く、解けにくいので舌ざわりが悪い。

【参考文献】
油の融点は脂肪酸によって決まる 油について知るブログ
https://aburano-hanashi.kuni-naka.com/12#i-2

肉基質たんぱく質にはコラーゲンやエラスチンが含まれ、その含量が多いほど肉質は柔らかい?

食用の肉の構成成分は約20%前後が筋肉タンパク質、約70%前後は水分、残りは脂質・炭水化物、ビタミン類からなり、これらのうち筋肉タンパク質は更に筋原線維タンパク質肉基質タンパク質筋漿タンパク質に分けられています。
上記の三つのたんぱく質について説明していきたいと思います。

筋原線維タンパク質
構成成分は主にアクチンミオシンです。
これらは塩溶性のタンパク質であり、塩類の添加により溶出し保水性が向上します。この特徴は特にミオシンが大きく影響を与えていると言われています。
ミオシンは肉の保水性や結着性の向上に大きく影響し、この原因として加熱によるミオシンのゲル化を介して肉の組織同士の結着性が向上し立体的な網目構造が形成され、この中に水分を保持し保水性が向上するためです。
しかしながら、死後硬直の際にミオシンはアクチンと結合(アクトミオシン)し、肉は硬い状態になります。加工時に用いる肉は死後硬直期を経過していますので、アクトミオシンが多くを占めているといえます。

筋漿タンパク質
筋漿タンパク質は、水溶性の球状タンパク質で、筋原線維間に存在する肉漿に溶けた状態で存在しています。
主な例としてはミオグロビンミオゲンが挙げられます。
ミオグロビンは酸素運搬に関わり、ヘム(鉄ポルフィリン)とグロビン(球状のタンパク質)からなる色素タンパク質であり、肉の赤色はこのミオグロビンの色に由来しています。血管内の血液中に存在する色素タンパク質は、聞いたことがある人も多いかと思います。このタンパク質をヘモグロビンといいます。
ミオゲンはエネルギーを生み出す生命活動に必要な酵素を含んでいます。筋漿タンパク質の65%を占め、主に解糖系に関わる酵素を含み代謝反応に大きく関わっています。
食肉においては無酸素状態の死後硬直中にグリコーゲンが解糖系で消費され、最終的に乳酸が生成されています。畜肉を茹でた時に出てくる「アク」の原因のひとつは、この水溶性の筋漿タンパク質が流出し凝固したものです。

肉基質タンパク質
肉基質タンパク質は主にコラーゲンエラスチンといわれるものであり、筋繊維を覆う筋内膜や筋周膜を構成する結合組織です。
コラーゲンは硬タンパク質で、分子構造は、アミノ酸の長い鎖が3本らせん状に合わさった形をしています。基本的には不溶性ですが、ごく一部は塩や酸に対して可溶であり、長時間水とともに加熱すると変性し水溶性のゼラチンになります。コラーゲンは加齢とともに分子間で架橋をし、不溶性のコラーゲン量が増えていくため、肉は硬くなっていきます。
鶏肉や牛肉など親の肉は硬いなどと聞いたことはありませんか?この原因こそが加齢と共に不溶性コラーゲンの割合が増えるためだといえます。
エラスチンは、一本の鎖が架橋して集まった構造で、コラーゲンと同様に硬タンパク質ですが、ゴムのような伸縮性を有しております。エラスチンはコラーゲンとは異なり加熱しても可溶化はしません。

つまり、長時間煮込む食品であればコラーゲン分子が壊れ可溶化し軟化するため肉は柔らかくなりますが、短時間の焼成などの加工では、コラーゲン分子が壊れる前に加熱で構の変性と収縮によりコラーゲンの密度が増し肉が硬くなってしまいます。(ステーキとビーフシチューではやはり煮込んだビーフシチューのほうがお肉が柔らかくなっていませんか?この現象です!!)
コラーゲンやエラスチンは前述の通り複雑な構造をしているため、pHの調整などの処理では十分な品質改良効果が得られません。いわゆる肉のすじがあり硬く噛み切れない肉の原因は、この不溶性の肉基質タンパク質によるものと言われています。
よって今回の答えとなります、肉基質たんぱく質の含量により肉質に影響を与えることがご理解いただけましたか?

(答え) 硬い
肉基質たんぱく質にはコラーゲンやエラスチンが含まれ、その含量が多いほど肉質は硬い。

【参考文献】
肉の構造 株式会社ハマダフードシステム
http://hamadafs.co.jp/publics/index/79/