このページでは、食品や化粧品、香りなどに天然物に関する研究室の事例を紹介することで、研究室の選び方について情報を提供しています。主に研究室配属される学生さん(3年生の後期、4年生から研究室に配属されることが多いです)、大学院に進学を検討している3〜4年生が主に参考になるのではと思います。高校生も、特に理系学部に進学する際は、大学選びや学部、学科選びよりも、行きたい研究室を視野に入れて受験することをお勧めします。
目次
研究室では何をする?
そもそも、研究室で何をするかイメージがない方々も多いと思います。ほとんど寄り付かずに卒業してしまう方もいますが、寝食も含めて多くの時間を過ごす方もいます。多くの研究室では、机が準備されていたり、ポットや電子レンジがあったりと朝から晩まで過ごすことが可能であることが多いです。社会人になったら、多くの時間を会社で過ごすようになりますので、長時間座ったり、多くの方々と食事をするなども含めて、なるべく長い時間を研究室で時間を過ごすことをお勧めしたいと思います。第二の我が家のような場所であったり、もしかしたら自宅よりも研究室こそが居場所になったりするかもしれません。
もちろん、研究もします。実際に実験をしたり、待ち時間を過ごしたり、パソコンを使って解析やレポートの作成なども含めて、研究室で実施する活動になります。
年次スケジュール
近畿大学産業理工学部の食品機能学研究室にて研究室に配属されてから大学院修了までの大まかなスケジュールについて以下記載します。
3年生9月:研究室仮配属決定
〜12月末:先輩や研究員より研究について学ぶ
〜年度内:主体的に1つの研究に関わる
4年生4月〜:就活、公務員や大学院試験対策をしつつ中間発表準備
8月:中間発表
〜12月末:後輩を指導しつつ主体的に研究を進める
2月:卒論発表会
3月:最後の大学院試験
修士1年生4月:入学式、TAスタート
2月:中間発表
修士2年生1月:修士論文発表会
研究室選びに関するFAQ
当研究室も含めて、可能な限り汎用性をもたせて、FAQ(Frequently Asked Questions:良く聞かれる質問)をまとめてみました。
当研究チームは、かなり特殊であり、「研究室」という概念を超えています。学外の共同研究先が本拠地となる場合も少なくありません。また、共同研究先の企業との関係が大学よりも深くなることも多いです。以下では、主に近畿大学産業理工学部の食品機能学研究室からの視点を中心にして質問についてお答えしています。九州大学森林圏環境資源化学研究室からの視点はこちらをご覧下さい。
どんな研究をしていますか?
身も蓋もない質問で、例えば異性に告白する際に、「あなたは何をしている人ですか?」と聞くような不躾な態度であったりします。もし大学院への進学を希望して研究室に訪問する際には、必ず十分な下調べをして下さい。「Webも見ずに研究内容を聞かれたから追い返した!」と激怒している教授や、「どんな研究をしていますかと聞いたから冷たくされました…」と意気消沈している学生さん、双方複数お聞きしたことがあります。
食品機能学研究室での研究は、このサイトのコンテンツすべてが研究内容です。信じられないかもしれませんが、ほぼすべての食品と、ほぼすべての疾病や健康の諸問題を対象にしています。問題解決方法も、臨床試験、成分分析、細胞実験など、ほぼ必要なほぼすべての研究分野を網羅しています。簡単に言えば、食品機能学に関して何でもできる研究室です。
研究テーマの設定はどのようにしていますか?
多くの研究室では、テーマが固定されています。指導教員が長年研究していたり、今後発展すると思われる研究が実施されていることが多いです。つまり、自分で研究テーマを決めることができないことは一般的な大原則です。
当研究チームでは基本的には自由設定にしていますが、自分で調べて積極的に動く方でないと難しく、頓挫して卒業が危うくなってしまうこともしばしばあります。各自の興味あることをお聞きして、その際に企業や行政(主に福岡県)と一緒に進めているプロジェクトに関わってもらうことが多いです。ほぼ常時進行しているプロジェクト一例を以下に列挙します。
・メタボリックシンドロームを改善するサプリメント
・心の健康(睡眠や疲労感なども含む)を改善するサプリメント
・認知機能に対して効果のあるサプリメント
・肌に対して効果のあるサプリメントや化粧品
過去の学生発案による自由テーマの一例を以下に列挙します。
・塩の感覚を引き起こす香りに関する研究
・抗酸化作用を血液検査で評価
・コーヒー残渣に含まれる多糖類の機能性表示食品開発
・カツオだしの風味に寄与する香り成分の分析
臨床試験はどのようなことをしますか?
臨床試験を実施できる大学研究室はわずかにありますが、常時複数の臨床試験が実施されている、国内で唯一の研究室(研究チーム)です。完全ではないですが、臨床試験マニュアルに詳細に記載している部分が多く、一度経験すれば、ノウハウを就職先などで活かすことが可能です。
会場となる場所(多くは九州大学馬出キャンパス)には、準備と測定実施の合計10日程度行く必要がある以外は、パソコンで可能なことが多いです。質問紙で実施する臨床試験の場合は、事務局を飯塚としていることが多く、郵便物の準備や発送、到着した質問紙の入力など、合計5日程度行く必要があります。
食後の血中脂質や血糖値測定の場合、測定している時間は立ち会う必要があります。食事をしてもらって、その後の血液検査する方法ですが、半日程度立ち会う必要があります。同時に4名程度可能であり、延べ人数20~40名(10~20名に対して2回)実験をすることが多く、これも10日以内に済ませることが可能です。
香りの研究はどのようなことをしていますか?
香りの効果をヒト試験で常時研究している研究室は非常に少なく、香り分析まで可能な研究チームは国内で唯一に近いです。経済産業省や農林水産省などの国家プロジェクト、大手企業からの受託研究をしていることが多いです。最も多いのは、杉に関する研究です。ヒト試験に関する詳細はこちらのページをご参照下さい。脳科学や心理学、生理学的な方法を駆使して、香りの効果を検証しています。香りに関する成分を分析する研究も実施しています。
機材や設備が九州大学伊都キャンパスに設置されているので、そちらでの研究が主になります。
化粧品に関する研究は、どのようなことをしていますか?
化粧品を専門として、細胞レベルから臨床試験まで研究できる場所は、国内でも唯一かと思います。一時期は、臨床試験(ヒト試験)が多かったのですが、最近は年に1~2本という印象です。臨床試験では、肌質測定器を使って、保湿やハリ、美白効果などを数値化して評価しています。こちらのページも参考になると思います。
圧倒的に多いのが、細胞実験や酵素活性などの評価による研究です。細胞実験等の詳細はこちらのページになりますが、主に九州大学伊都キャンパスで実施されており、近畿大学産業理工学部の細胞生物工学研究室と提携して実施することもありました。
九州大学(学外)に行く必要がありますか?
すべての研究を共同研究のスタイルで実施しています。上記の通り、九州大学での実験が多いです。また、社会人になる準備も含めて、研究室に閉じ籠もっていては意味がないので、可能な限り学内の方々と関わってもらうようにしています。ですが、ずっと学外で研究する必要はありません。技術を習得してホームグラウンドに持ち込んで研究を実施することなども可能です。
成績が悪い(経験がない)のですが大丈夫ですか?
苦労するとは思いますので、大丈夫と断言はできませんが、研究にはモチベーションや興味が第一だと考えています。やり抜くという強い意志があれば、成績や経験に関係なく成功されている方は多くおられます。簡単な濃度計算なども出来ずに、ですが研究員になられている方もいます。
逆に、あまり興味のない成績優秀者は、無難に卒業することなどができたりもしますが、苦しんだ成績不振者の方が得るものが多かったのではないかと感じることが多いです。
就活(院試・公務員試験)と両立できますか?
一般論としては、研究室選びの際には聞かない方が良い質問です。やる気がない、自分勝手と思われてしまう可能性もあります。
近畿大学産業理工学部食品機能学研究室としては、就活との並行実施を奨励しています。また、大学院進学も応援しています。上記の通り、コアタイムという概念もなく、必要な時に必要な研究をするというスタンスです。
個人的には、昨今の仕事や報酬を得る方法として、二足や三足のわらじを履く(≒副業や副収入を得る)ことは当たり前となってきつつあります。研究を本業、サラリーマン(筆者の場合は大学教員)を副業と考えることも可能であり、学生さんの場合は研究室を本業、就活を副業のように同時並行するような経験は大いに将来に役に立つと思います。