臨床試験の実施体制と全体像

 臨床試験の成功は、多少過剰気味の有能なメンバーと細かい役割分担の構築、何より質の高いモニターの方々が参加して下さることが鍵を握っています。臨床試験の実施経験がない企業等につきましては、軌道に乗るまで、経験のある外部人材のコンサルティングをお勧めします。

用語の説明と役割

クライアント:ヒト試験を依頼する企業およびその担当者です。社内の場合は、上司や経営者がそれに該当します。

責任者:予算を受ける組織の代表者です。社内試験の場合は、臨床試験実施組織の上司が該当します。

マネージャー:責任者とリーダーの仲介や予算管理、人材の確保をします。大学では助教以上の教育者、企業では課長職以上の管理職が想定です。リーダーや責任者、アドバイザーが兼務することも多いですが、別途マネージャーがいることが望ましいです。

リーダー:プロジェクトの全体像を把握と調整します。実行指示や報告書作成など、プロジェクトの中心人物です。修士号以上を持つ研究者、またそれらの過程にある学生も候補です。

アドバイザー:リーダーや担当者の問い合わせ担当や技術指導、補佐等をします。 臨床試験に多くの経験がある者が1名は必要です。

担当者:リーダーの指示に従い業務を実行します。経験の高い者は他の担当者の指導者となることもあります。

スケジュールと分担

 臨床試験の進め方は様々ですが、主に以下のような 流れでプロジェクトは進むことが多いです。依頼主であるクライアントも被験物作成などの分担が生じることがあります。

打ち合わせと着手

 主にクライアントと責任者の話し合いによる打ち合わせが一般的です。その際にリーダー等が同席していると、責任者の負担が軽減されます。

試験計画の確認:前後比較もしくはプラセボ比較、試験品の用量、摂取期間、評価項目などを決めます。

見積書作成と了承:試験計画に応じて金額を試算しクライアントの了承を得ます

プラセボ製造の依頼:プラセボの製造は主にクライアントが担当し、その納期を可能な限り明確にします

試験準備

 倫理委員会の申請とUMIN登録はリーダーが担当することが多いですが、その後の作業はリーダーと複数名の担当者の協業によって進みます。

倫理委員会への申請:研究計画を元に倫理委員会への申請書を作成し、委員会の承認を待ちます。

UMIN登録:機能性表示食品申請の場合はUMIN登録が必要です

物品の準備:測定機器がある場合はその動作確認をします。また、消耗品があるかを確認し、必要量と予備を購入します。

日程調整と人員確保:組織外の有資格者(採血の看護師等)や被験者対応に必要な人員が十分かを確認します。

会場の手配:組織内の部屋や貸会議室の他、 連携する病院やクリニックがある場合は予約や日程の伝達をして確保します。

被験者への配布物:説明書、同意書、質問紙、日誌など印刷物は必要量プリントアウトします。

モニター募集

 当研究チームでは数百名の方々にメールマガジンを通じて連絡をすることが多いですが、口コミから発展したものであり、必要に応じて、直接、被験者を探す必要があります。主に担当者により進められます。

募集要項の作成:日程、測定項目などを伝える書面を作成します。

モニター様への連絡:メールやFAX、郵送や直接の伝達などで募集します。

日程調整:応募して下さった方々と日程調整をします。

事前測定~事後測定

 主に担当者により測定が実施されます。専門性が高い生化学分析などはリーダーが担当することが多いです。

対応と測定:会場やクリニックにモニター様を招いて測定を実施します。

数値入力:測定が終わり次第、順次Excelに入力します。

解析準備:統計解析や報告が円滑になるよう、Excelの関数やグラフを準備します。

統計解析

 測定で得られたデータが科学的に効果があるかを判断するために数値解析します。主にリーダーが担当します。

Excelでの解析t検定までの解析をして有意差の有無を確認します。

高度な解析分散分析などの解析を実施することもあります。

報告

 クライアント様の要望に従い、メールやLINEでの連絡、報告書をプリントアウトして打ち合わせなどをします。

速報:様式は 特に決まっておらず、パワーポイントでチャンピオンデータをお知らせすることが多いです。

報告書:試験計画に応じた測定項目のすべての平均値をお知らせして、結果の判断などを詳細に記載します。

役割分担の詳細

 上記にも役割分担が書かれていますが、それぞれの立場に沿って役割分担を記載しています。

マネージャーの役割

 責任者より納期やリソース(予算・物品・人手・被験者候補)等を確認し、その責務の一部を委任され、プロジェクトを成功させる基礎を作ります。時にはアドバイザーやリーダーの業務を担うこともありますが、可能な限りマネジメントで解決させることが基本です。具体的な業務は以下になります。

プロジェクト着手時
・クライアントとの相談、交渉、手続きのサポートや代行
・アドバイザー、リーダーの依頼、メンバーの手配と役割分担伝達
・グループLINEでの議論活性化、必要な際はメンバー招集
・プロトコールの精査、微調整

モニター募集
・謝金の相談や決定

事前測定準備~実施
・人員不足の際の手配

事後測定後
・謝金支払いの手配

報告
・クライアントへの報告を責任者と同席もしくは報告代行

リーダーの役割

 プロジェクトの責任は、最終的には責任者(クライアントより予算を受けている者)が担いますが、実施責任はプロジェクトリーダーが担います。責任者、マネージャー、アドバイザーから指示を受ける前に、自分自身のプロジェクトとして、責任を持って主体的に遂行することが求められます。卒業論文として研究を実施する学生もリーダーに該当します。「チェックシート」に沿って業務を進めて下さい。具体的な業務は、以下になります。

プロジェクト着手
・クライアント、責任者、マネージャーより全体像の把握
・DropboxやグループLINE作成
・グループLINEでの議論活性化、必要な際はメンバー招集
・プロトコールの精査、微調整

モニター募集
・募集要項作成、募集作業
・事前測定準備~実施
・担当者へ業務の依頼(チェックシートを参考に)、サポート
・摂取期間には解析準備

事後測定後
・担当者への入力指示、サポート
・解析実施

報告書
・速報、最終報告書の作成

アドバイザーの役割

 アドバイザーは文字通りアドバイスをする人ですが、アドバイスだけが業務ではありません。リーダーのレベルが高い場合はアドバイスだけ務まりますが、多くの場合、リーダーの責務(プロジェクトの実行責任)を全うしてもらうために、アドバイザーが業務を代行することも少なくありません。さらに、マネージャーの責務(クライアントやメンバーとの調整等)を軽減することでプロジェクト全体を円滑に進めるキーパーソンです。ですから、リーダーやメンバーが忘れている部分を指摘することは積極的にすべきですが、業務が増えるようなアドバイスは控えて下さい。

 別紙「チェックシート」が進んでいるかを確認して、送れないようリーダーやメンバーに知らせるか処理をして下さい。各アドバイザーの経験やキャラクターで得意とする範囲は違ってくると思いますが、具体的な業務を列挙します。

プロジェクト着手
・クライアント、責任者、マネージャーより全体像の把握、リーダーとの共有
・体制案のアドバイス、DropboxやグループLINE作成をリーダーへの指示or代行
・グループLINEでの議論活性化、懸案のアドバイスや調査等
・プロトコールの精査、微調整

モニター募集
・募集要項作成の指示or代行

事前測定準備~実施
・準備状況の確認、サポート
・実施状況の確認、サポート
・摂取期間には解析準備のアドバイス、サポート

事後測定後
・解析指導、代行

報告
・報告書作成指導、代行
・報告会の同席、代行

リマインダーの役割

 アドバイザーの役割でもありますが、別途、リマインダーの担当者を決める場合があります。リマインド(remind)とは、思い出させる、思い起こさせるという意味で、会議や面談の前に忘れないように連絡をする際に「リマインドする」といった使われ方をしています。ヒト試験でのリマインダーの役割は、単純に「リマインドする」だけではなく、マニュアルを確認しつつ各メンバーが忘れていることや周知されていないことを思い出させる役割も担います。

 リマインダーの適切な活躍により、プロジェクトの遅延が防がれ、各メンバーの負担が軽減し、マニュアルに則った質の高い試験実施が可能になります。未経験者も担当可能で、マニュアル等により全体像を把握することができます。

プロジェクト着手
・マネージャーより全体像(主にスケジュール)の把握、リーダーとの共有
・チェックリストの確認開始、リーダーへのリマインド(グループLINEへの連絡)
・進行状況をマニュアルと対比、マニュアルの提供、マニュアルの微調整

モニター募集
・進行状況をマニュアルと対比、マニュアルの提供、マニュアルの微調整
・遅延が生じる前にリマインド

事前測定準備~実施
・進行状況をマニュアルと対比、マニュアルの提供、マニュアルの微調整
・遅延が生じる前にリマインド

報告書
・進行状況をマニュアルと対比、マニュアルの提供、マニュアルの微調整
・遅延が生じる前にリマインド