本ページでは、主に内部メンバーに向けて論文(外部に投稿する論文)の執筆方法について説明します。報告書を執筆することのできた担当者、大学の学部生レベルを想定して記載しています。ここでは、臨床研究の報告書がある場合を想定したマニュアルとしています。英語論文も基本的に同じ構造なのですが、日本語論文の作成として説明しています。
論文の執筆は、解析されていないExcelデータのみを提供される場合もあります。また、報告書で利用する統計解析と研究論文に必要な統計解析が異なる場合もあります。指導者にも確認しつつ、統計解析や報告書のマニュアルは他のページを参照してください(サイト内検索で複数のページがヒットすると思います)。
目次
論文作成の準備と執筆開始
報告書と参考となる完成論文のデータを入手してください。参考となる完成論文がない場合は、本ページ末尾にある「簡易テンプレート」のデータを使ってください。報告書の情報をテンプレート(完成論文も含む)に反映させることで大部分が進みますので、まずは1週間位内を目処に、報告書からテンプレートへの反映を進めてください(作業自体は数時間、半日程度で終わると思います)。
論文執筆の進め方に完全な正解はありませんが、以下の方法が進めやすい方法の1つになります。
事実に即した部分:図表、方法、結果
↓
事実から検討できること:考察、結論
↓
全体像のまとめ:要旨
↓
事務的な部分:利益相反、表紙、引用文献、英語表記
報告書から悩まずに反映できる部分は、図表、方法、結果、考察が中心となります。結論や要約は、それらをまとめたものなので、多少頭を使いますが、それも多く時間を使わずに済むと思います。
個人的に意外と大変な部分が引用文献です。英語表記も含めて、執筆が数日ストップするような状態になってしまった際は、遠慮なく指導者に問い合わせてください。1日1時間程度の作業をして、全体を完成させるために1ヶ月程度が目安です。
統計解析のやり直し
報告書は基本的に企業からの依頼が大多数であり、製品の良さを判断することなどが中心的な役割となっています。そのため、良い結果が出やすくコストのかからないt検定を利用していることが多いです。その際はExcelでも実施可能です。
研究論を投稿する先にもよりますが、統計解析のやり直しが必要な場合があります。厳しい審査が実施される英語論文では、専門的な統計ソフトウェアが使われることが多く、Excelでは受理されない場合もあります。信頼性の高いソフトウェアはSPSS、SASなどがあり、有料のソフトウェアになります。
一般的な臨床試験、具体的には試験品とプラセボを比較する場合、二元配置の分散分析が使われることが多いです。当研究グループでは、Excelにアドオンで実施できるHADを利用しておりHADマニュアルも整備しています。
日誌の風邪症状、便の回数など度数を比較する場合は、χ(カイ)二乗検定が使われることが多いです。これは、χ(カイ)二乗検定を解説している講義ページで方法を確認してください。
2群の時間変化がある場合でも、食後血糖値のAUCについてはpaired t-testでも可能です。原理原則を理解しておらず慣れない場合は、ケース・バイ・ケースと考えたほうが無難です。
論文の構成
論文によって(筆者によって)書き方が異なりますが、以下、代表的な臨床研究に関する論文の流れになります。結論や利益相反が省略されている(方法や考察など他の項目に含まれる)論文もありますが、それ以外は、どのような論文にも必須です。
- 表紙・タイトルページ
- 要旨(Abstract)
- 材料および方法(Methods)
- 結果(Results)
- 考察(Discussion)
- 結論(Conclusion)
- 利益相反
- 参考、引用文献(References)
- 表・図
表紙・タイトルページ
①タイトル
例:〇〇の摂取による△△への影響の検証
―プラセボ対照・ランダム化比較・クロスオーバー試験―
②著者名
筆頭著者から順に、論文の執筆や試験に関わった人の名前を記載する(※著者の順番について)
所属ごとの数字を名前の右上に付ける
例:山田太郎1、田中花子2
③概要
本試験の概要を記載する
研究目的、試験デザイン、方法、結果、結論を簡潔にまとめる
④所属
著者名の右上に付けた数字ごとに所属先を記載し、最後に責任著者の所属、氏名、住所を記載する
例:1:近畿大学産業理工学部生物〇〇学科
2:株式会社ユーザーライフサイエンス
責任著者:株式会社ユーザーライフサイエンス 大貫宏一郎 〒〇〇~~
緒言(Introduction)
①研究背景、目的、先行研究、課題設定
(研究の目的と重要性を明確に述べる)
先行研究や同様の論文の緒言を参考にするとよい
例:食後血糖値抑制試験
現在の世界や日本の糖尿病人口、高血糖が及ぼす病的リスクについて言及し、血糖値のコントロール等の重要性について述べる。目的の強化として先行研究の結果等を用いて本試験の目的と重要性について述べる。
材料および方法(Methods)
1)倫理的配慮
ヘルシンキ宣言に則り実施した旨、倫理委員会の承認番号、臨床試験登録の有無(登録している場合は登録番号)、インフォームドコンセントの実施について記載する。
2)募集
被験者の募集方法
3)選定基準および除外基準
本試験の選定基準および除外基準を記載
4)症例数
目標症例数を記載
5)試験デザイン
6)介入
試験物、プラセボの摂取量や摂取方法、摂取期間を記載
7)割付
割付方法、クロスオーバー試験の場合はウォッシュアウト期間を記載
割付けた群ごとの平均年齢±標準偏差を記載
8)検査項目
①主要アウトカム
例:食後血糖値の場合
摂取30分後、60分後、120分後の血糖値
測定に使用した機器
②副次アウトカム
主要アウトカムの結果を補足するようなもの
例:食後血糖値の場合
AUC、インスリン分泌など
9)統計解析
本試験で用いた統計的手法やデータの解析プロセスについて記載
例:
各データは平均値±標準誤差で示した。
それぞれの群間比較には、Paired t-testを用いて行った。危険率5%未満を有意と判断した。統計解析は、Microsoft Excel 2021(日本マイクロソフト株式会社、東京都港区)を用いて行った。
結果(Results)
1)解析対象者
試験参加例数、解析対象数、脱落や解析から除外した者がいた場合は理由と合わせて記載
2)主要アウトカム
試験の解析結果、有意差等について
3)副次アウトカム
4)有害事象
試験期間中に確認された有害事象について記載
ない場合も記載
考察(Discussion)
①結果の解釈、理論と関連付け、限界、今後の課題を考察し記載する
②他の研究との比較・関連を述べる
結論(Conclusion)
研究の成果を簡潔にまとめ、今後の展望に言及する
利益相反
例:本研究は、〇〇株式会社(または〇〇機関)から資金提供を受けて実施されました。
参考文献(References)
論文で使用した文献を記載する
例:論文
著者名.論文タイトル.掲載雑誌名.発行年;巻(号):ページ
例:Webサイト
著者名(または組織名).ページタイトル.ウェブサイト名.URL.閲覧日(2024年10月20日)
表・図
研究結果を示した表や図を挿入する
例:表
血糖値AUC(mg・h/dL) | インスリンAUC(μU・h/mL) | |
試験物群 | 180.3±2.8** | 11.1±0.7* |
プラセボ群 | 200.1±3.5 | 12.5±0.9 |
例:図

試験物群(黒丸・実線)、プラセボ群(白丸・点線)。エラーバー:標準誤差、*p<0.05
簡易テンプレート
簡易的なテンプレートを掲載します。